救急科専門医にとってのダブルボードのありかた
第53回日本救急医学会総会・学術集会で行われた主題関連セッション6「救急科専門医にとってのダブルボードのありかた」を取材しました。
このセッションでは、救急科専門医に加えて、外科専門医、整形外科専門医、麻酔科専門医を持つ中堅救急医が、その魅力や意義、苦労や苦悩について、ナラティブな語りの形で発表されていました。それぞれの発表は、率直に語られており、リアルで説得力がありました。
(注:今回はダブルボードのセッションではありながらも、サブスペシャルティ専門医のひとつとしてIVR専門医も取り上げられていましたので合わせて報告します。)
+外科専門医の立場では、
救急医ならではの迅速性、診断、方針決定、手術の流れがあり、あくまで救急医がベースにあってこそのダブルボードという発表でした。
メリットは知識の豊富さ・幅広い手技の取得や働き方改革に寄与することを挙げられている一方、デメリットとして、習熟度が中途半端になる可能性を指摘していました。
意義としては、素早く診断・方針決定を行う「救急医」ならではの迅速性が挙げられ、ダブルボードを持つ救急医が予後改善に寄与する(したい)ことを挙げられていました。
工夫としては、救急科に所属しながらも外科に関わることができる、ダブルボードを見据えた施設を探すことと、長期的な計画を立てることの必要性が強調されていました。
発表を通して、臨床現場で優れた能力を発揮して活躍するロールモデルとなる上級医の姿から大きな影響を受けて、外傷外科への道を追求するモチベーションになっていると感じました。
+整形外科専門医の立場では、
メリットは、救急外来は整形外科疾患が多く、この疾患群を診断から初療、手術計画までしっかりマネージメントできることを挙げていました。
デメリット(研修上の困難さ)は、整形外科修練の特徴として、学会に入るために2名の推薦が必要なことと、専門医になるために変性疾患、小児疾患など、大学でないと経験できない幅広い疾患経験が必要なことが挙げられていました。
モチベーションの置き所に関しては、大きな病院ほどダブルボードの意義を見出しにくくなることが挙げられていました。大学など大きい施設では個別化され、専門に特化されるため、能力を発揮しづらく、自由度の高い地方中核病院で働くことに意義を見出していると語られていました。
ダブルボードに向けて、両方の診療科を同時に進めるべきか専従するべきかの問いに関しては、専従すべきという意見が述べられていました。短期間ごとに交代しながらローテーションすると、手技の習熟度が上がらないため、まとまって修練すべきと強調されていました。
質疑応答では、他の整形外科医より、救急から整形に進む人を見ていると、やりたくて道を開く人が多いのか、楽しそうな人が多いという話題がでました。
発表を通して、整形、救急、家庭と全てにパッションを持って楽しく仕事の様子を語られる姿が印象的でした。
+麻酔科専門医の立場では、
メリット・強みとしては、救急目線での緊急手術、一般的な外科系の科の目線での定時手術、手術室看護師の体制、緊急手術時の麻酔科の体制など、手術室運営における部門間のギャップを埋める役割を担えることです。
実務として毎朝、救急科と麻酔科で合同カンファレンスを行い、現状を相互にモニタリングして認識しているとのことでした。限られたリソースの調整やお互いの業務の理解に努めるための環境づくりの重要性が挙げられていました。
プレホスピタルから初療、術中、術後まで携わることができる、”acute care specialist”として救急×麻酔科の魅力についてお話されているのが印象的でした。
+IVR専門医の立場では、
(注:IVR専門医はダブルボードではなく、厳密にはサブスペシャルティに当たります)
手技系サブスペシャリティを持つことのメリット・強みとして、救急診療において「assertiveなリーダーシップを持てる」「患者の予後に関わる手技のオペレーターを担える」「頼りにされている感覚(=お願いする側でなく、お願いされる立場)のやりがい」が語られていました。
IVR専門医の取得に関しては、最近、専門医制度の変更があり、救急専門医からIVR専門資格へのアクセスとして、「救急IVR認定医」制度が新たに確立されています。手技系サブスペシャリストとしての技能維持の重要性やその継続性について、「定時手技に関わること」「オンコールの負担の按分」「後進育成のシステム」「専門家との連携」「ライフステージにおける子育てと働き方」といったポイントが強調されていました。
また、サブスペシャルティを取った故の苦労として、「取ったあとの自身のキャリアデザイン」や「後進育成」についてもまとめられていました。今後立場が変わり、自分が手技の第一線に立てていなくとも、後輩のための道をどうするか、後輩が第一線に立ち、後輩からも教われるような関係づくり、といったことを語られ、目先だけでなく、ダブルボードに関して中・長期的な目線も交えた発表でした。
「ダブルボードの在り方について」アンケート調査を踏まえて
最後に、全次対応の独立型救命センターの単施設の救急医25名に行ったダブルボードの在り方に関するアンケート調査結果が報告されました。ダブルボードの必要性を支持し、取得を考えている人が80%以上でしたが、勤務する救命センターの体制別に分けると、ER型では40%弱、独立型では100%と大きな差が出ました。独立型では、ダブルボードの取得が救急診療の幅を広げてメリットがあると考えられ、実践するロールモデルの存在の強い影響が挙げられていた一方で、「取得までの時間」や「維持・更新の大変さ」といった懸念の声もあり、相反する結果でした。
今後の展望としては、救急医の誰もがダブルボードにチャレンジしやすくなる状況・環境の整備として、ダブルボード取得者の専門医更新の簡略化、同時並行で研修可能なプログラムの構築と、今後の他施設での調査が提案されました。
一方で、負担となっている研修期間の時間・費用効率、実務適合性を考慮して、海外の事案を元に、1、2年のフェローシップのシステム整備を学会や病院主導で行うことも提案されました。
上記を通してサブスペシャルティの社会的認知・地位の向上を行いつつ、日本におけるダブルボードを整備していく工夫点がまとめられていました。また「救急医を目指す君へ」などのホームページを通してのダブルボード取得の閾値を下げるコンテンツの充実化をはかり、社会発信する必要性も挙げられていました。
取材を終えて
ダブルボードは研修、専門医取得、維持に少なからず労力を必要としますが、取得することにより、自分自身の救急医としての幅を拡げられ、決定的な仕事を素早く意思決定できる魅力があります。また、取得後の病院内での働き方もイメージすることが大事で、領域を跨いで仕事をすることにより各科をつなぐ潤滑油ともなりうるのではと感じました。また、この主題関連セッションの元であるワークショップ「救急科専門医にとってのダブルボードの在り方」では、小児科専門医や総合診療科専門医など他のダブルボードの発表もありました。
いずれの道を目指すにせよ、「地域や施設から何が求められているかという視点」を持って、フェローシップやダブルボードに取り組んでいくことが重要で、この制度の今後のさらなる発展を楽しみにしたいと思います。(文責:白根翔悟、宮前伸啓)
◁過去の記事:
▷新しい記事:
