エピローグ②【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】
エピローグ②
八戸市立市民病院は臨床研修指定病院である。明秀は着任2年目の4月から研修および救急指導責任者になった。研修プログラムは、初期研修1〜2年の前半で必修科をローテートした後に、2年目後半で将来の方向は変更可能で、さらに力をつけた3年目には専門領域の選択が研修医たちを待っている。内科系から外科系の変更も可能で、2年研修よりも3年研修のほうがゆったりしているというのが、研修医たちの感想だった。明秀が指導責任者として研修医に向けたメッセージはとてもユニークなものである。
八戸市立市民病院を5つ星ホテルから連想させて「5つ星」と呼ぶ。この病院の5つ星とは、1 臨床研修指定病院、2 地域医療支援病院、3 第3次救命救急センター病院、4 急性期入院加算病院、5 日本医療機能評価機構認定病院となる。
「そんな5つ星病院で働いてみないかい」と問いかけ、「研修医室」「当直室」「積雪」「歓楽街」「海」「給料」「学会」「歩くアサクラ内科」など研修医たちが知りたい環境に関する32個のキーワードを並べて、懇切丁寧、的確でユーモラスな解説をする。2、3紹介してみよう。
「海」・・・・国立公園に指定されている海岸には、鳴く砂がある。天然芝の緑がまぶしい。お台場の人工砂や沖縄の歩くと痛い砂とは違う。ボディボードやサーフィンポイントまで病院から25分。しかし、ダイビングは禁止です。なぜならそこらじゅうにアワビが養殖されているから。外科医局では、夏になると海水浴&バーベキューにと海岸へ繰り出す。外科医師全員が海に出ても大丈夫。緊急手術時は、すぐに戻れる距離だ。研修医は4月に1次救命処置講習会を受けるけれど、自分が溺れたら役に立たない。
「名人、循環器内科」・・・・心臓カテーテル検査は年間1200例以上を誇る菊池先生という名人がいる。三浦先生というブレインがいる。内科研修では1番人気。1日に2回は除細動症例が来る。3カ月で何回除細動をかけられるかな。
「にんにく日本一、マグロ日本一」・・・・地域医療研修は、にんにく日本一で田子牛産地の田子町の病院で行う。焼肉好きは高脂血症に注意。田子町までは車で1時間。米よリウエが多いウエ丼を食べたことがあるかい?本州最北端大間町はマグロだけでなくウエも有名である。大間病院までは線路が届いていない。バスで行ったら4時間はかかる。患者救急搬送時はヘリコプターだ。
これを読んでいるうちにイメージが広がり、「おお、充実した研修生活が僕を呼んでいる」という気分になるだろう。
研修2年目の佐々原剛医師は千葉県出身、弘前大学医学部を卒業した。八戸市立市民病院が研修医の教育に熱心で、多くの症例を経験できると聞いていたことから、「力がつくのでは」と思って応募した。
「薬物中毒など救急でなければ見ないような症例は、テキストを読んでいたのと実際とは違ったので勉強になりました。今先生は詳しくわかりやすく教えてくれます。研修医は忙しくて当たり前ですが、他科研修では1人ぼっちにされることも多いのです。今先生に教わる機会が少ないのが残念です」
佐々原医師が言うように、明秀は着任以来、川口にいたころよりも忙しい日々を過ごしてきた。月曜日と水曜日が当直、土日に県外で講習会があれば、金曜日の夜は移動日となる。1週間が8日あればいい」と明秀は言う。たとえば、全国各地から要望されているPTLS講習会はすでに30回を超え、受講生はすでに700人を超えた。おもに研修医たちにとってはとても理解しやすい講習会であると評判で、やはり呼ばれればどこへでも飛んでいく。明秀の救急医療活動の重要な使命でもあるのだ。1週間は8日になっている!?
「ドクター・コトーのような医者になりたいので、そちらで研修させてください」
八戸市立市民病院にそんな電話をかけてくる研修医が増えているという。人気漫画『Dr明秀が八戸に来てから救命救急センターは地元の新聞やテレビなどでもクローズアップされ、高く評価されるようになった。時を同じくして、弘前大学附属病院では救急医を4人に増やし、救急医療に力を入れはじめたと聞く。このようにして青森県全体で救急医療が盛り上がっているのである。
次回「エピローグ③」に続きます…
本連載は、2005年に出版された書籍「プリベンタブルデス~ある救急医の挑戦」のものであり、救急医の魅力を広く伝える本サイトの理念に共感していただいた出版社シービーアール様の御厚意によるものです。 なお、診療内容は取材当時のものであり、10年以上経過した現在の治療とは異なる部分もあるかもしれません。
早く続きを読みたい、書籍で読みたいという方は http://www.cbr-pub.com/book/003.htmlや Amazonから購入できます。
◁過去の記事: エピローグ①【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】
▷新しい記事: エピローグ③【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】