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植物状態から甦って「コンセンセイ コンニチハ」⑥【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】

第2章 救命、そして再生への道

植物状態から甦って「コンセンセイ コンニチハ」⑥

それからニカ月後、私は川国市立医療センターで撮った記念写真をもって、卓くんが生活する療護園滑川を訪ねた。東武東上線森林公園駅から車で十分、田んぼの真ん中にある療護園滑川は二〇〇二年四月に郵便局員の岡田昭一さんが私財を投じて建てた身体障害者療護施設で、岡田さんが理事長を務める社会福祉法人「きずなの会」が運営している。

係員に案内されてエレベーターで二階へ上がると、ちょうど卓くんは廊下に出ていて車椅子で足漕ぎ?運転を練習中。私がで」んにちは」と挨拶すると「は・じ・め。ま。し・て」と声を出す。残念ながら、卓くんはニカ月前に川口市立医療センターで会ったことは覚えていないようで、差し出した写真に写っている今明秀のこともわからない様子だが、じっと見入った。

係員がはずんだ声をかけてくる。「あら、卓くんが写っているじゃない。かわいく撮れているね。いま、卓くんは国で話す練習をしているのよね」大広間のテーブルをはさんで卓くんと向き合った。音声のワープロ会話器で、

〈ボクハパーニナリマシタガゲンキデス〉と自己紹介するので面食らつてしまったが、そのあと〈キイテモイイデスカ〉ときたので、

「はい。どうぞ」
〈イキタイトモ シニタイトモ オモワナイトキハ ドウシマスカ?〉

生きたいとも、死にたいとも思わない…いきなり深くてハードな質問に私は度肝を抜かれてしまった。「とてもむずかしいです。卓くんは哲学する人ですね。私なら、とりあえず寝てしまいます。明日、考えます」

大笑いする卓くん。笑ってもらえてよかったと少しほっとした。そのあとは二人で言葉の
ゲームをしてから、「ボクノヘヤニ キマスカ?」と聞いてきたので、さっそく卓くんの車椅子をゆっくり押しながら部屋へ移動した。私が実際に車イスを押すのは生前の父がのった車椅子を押して以来、これが三度目である。

次回に続きます…

プリベンタブルデスーある救急医の挑戦本連載は、2005年に出版された書籍「プリベンタブルデス~ある救急医の挑戦」のものであり、救急医の魅力を広く伝える本サイトの理念に共感していただいた出版社シービーアール様の御厚意によるものです。
なお、診療内容は取材当時のものであり、10年以上経過した現在の治療とは異なる部分もあるかもしれません。

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書籍連載   2017/10/05