ヘリコプター搬送②【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】
第3章 救急こそ医療の原点
ヘリコプター搬送②
明秀はていねいに1つ1つを説明していった。当然、それらを聞かされた阿部さんは驚いた。眠っている間は「友達と酒を飲んでいる夢を見ていた」というほどで、日覚めてみれば集中治療室のベッドの上で身動きのとれない状態にあったというから、その驚きは想像に難くない。
ニカ月後、阿部さんは元気に退院した。母親がそのときのことを語る。
「私は息子が重傷であることに気が動転しましたが、今先生が息子の命を救うためにどういう手術をするかということを説明されました。今先生の対応の早さを見て、私は息子は助かるだろうという予感がしました」
「阿部さんの容態はまず大官の自治医大病院まで行けるかどうかが、勝負の分かれ目だと思いました。そして、自治医大病院での大動脈手術がもう1つの山。さらに、次から次へと術後の処置をしなければならず、外傷治療に慣れているICUへのヘリコプターの搬送を決めました」
消防署に連絡してヘリコプター搬送を要請したところ、「川口と大官間の約20キロメートルの距離を、ヘリコプターで搬送するとは何ごとだ」と非難された。
しかし、明秀は1歩も譲らなかった。
「患者の呼吸状態では救急車による搬送は負担が大きく、絶命の危険があるのでヘリコプターを使います」
患者の命を救うために自信をもってヘリコプターを要請したのだった。
ドクターヘリというのがある。これは、救急医療に必要な各種機械や薬剤、ストレッチャーなどを装備して、消防機関などからの要請があれば救命救急センターに隣接しているヘリポートから救急専門医や看護師が同乗して救急現場に向かい、いち早く患者に救急医療を行うことのできる専用のヘリコプターである。大規模災害時も有効活用することを目的としている。
2005年4月現在、全国にさきがけて2001年にスタートした岡山県の川崎医科大学附属病院や愛知医科大学附属病院など8カ所の救命救急センターで運用されているが、まだまだ少ない。特に北海道などはその必要性を迫られており、2005年度予算案の重点施策に「ドクターヘリ導入促進事業」が盛り込まれ、実現に向けた動きが活発である。また、東京消防庁のように救急専用ヘリを導入し、ヘリコプター基地周辺の救急医療機関から医師をビックアップして救急現場に出動する方式を取り入れているところもある。
次回に続きます…
本連載は、2005年に出版された書籍「プリベンタブルデス~ある救急医の挑戦」のものであり、救急医の魅力を広く伝える本サイトの理念に共感していただいた出版社シービーアール様の御厚意によるものです。 なお、診療内容は取材当時のものであり、10年以上経過した現在の治療とは異なる部分もあるかもしれません。
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