救急医のキャリアは、多様なキャリアパスへの出発点
救急科専門医に限らず、どの専門医資格もそうなのですが専門医の資格はゴールというより出発点です。専門医を取った後にどんな働き方をするかは、人によってかなり異なります。特に、救急科専門医は多様なキャリアパスが広がっています。
専門科を選ぶ医学生や若手医師のなかには、「救急医になったら、ずっと救命救急センターで当直をして最前線で走り続けなければならないのだろうか」と心配する人もいるでしょう。実際には、救急医の働き方は以前より幅広くなっています。救急科専門医に占める女性の割合は若い世代ほど高く、1990年代生まれでは約3割とされています。こうした変化のなかで、学会として伝えたいことがあります。特定の層への支援が、ほかの層の負担になってはいけないということです。たとえば女性医師の育児やキャリアを支援した結果、そのしわ寄せが男性医師や独身の医師に及ぶようでは意味がありません。性別や家庭の事情にかかわらず、どの世代の救急医も無理なく働き続けられる環境を、私たちは目指しています。
第54回日本救急医学会総会・学術集会では、男女共同参画推進委員会と救急科プログラム参加推進委員会が共同でラウンジ企画を開きました。他領域とのダブルボードやサブスペシャリティ、行政機関・国際援助など臨床以外への転身、ライフステージに合わせた働き方の調整経験、開業からフリーランスまでの立場の異なる救急医のキャリアなど、多彩な実例が紹介されました。救急科専門医の持つ可能性の広さが改めて明らかになりました。以下にその報告をまとめます。
【開催報告】第54回日本救急医学会総会・学術集会 ラウンジ企画
〜救急医を全うする(救急医のキャリア形成)〜
企画の概要
第54回日本救急医学会総会・学術集会(長崎)で、男女共同参画推進委員会と救急科プログラム参加推進委員会が共同し、ラウンジ企画を拡充して開催しました。これまでのラウンジは、子育て中の参加者の休憩スペースとしての役割に加え、女性医師のキャリアを中心としたミニ講演を行ってきました。今回はその役割を残しつつ、「救急医を全うする(救急医のキャリア形成)」を主なテーマに据え、学会期間を通じたキャリア支援企画としました。対象も女性医師に限らず、すべての世代、すべての生き方の救急医に広げています。
講演で紹介されたキャリアの例
学会期間中の3日間、ラウンジで企画された「救急医を全うする」セッションでは、救急医としての経験を土台にした多様なキャリアが紹介されました。大きく3つのテーマに分けて報告します。
【専門性を掛け合わせる】
基本領域専門医とのダブルボード(外科、小児科、整形外科、脳神経外科など)をはじめ、集中治療などのサブスペシャリティ領域だけでなく、緩和ケアや漢方など他領域との組み合わせで強みをつくる事例が報告されました。また、救急医と弁護士、救急医と公認内部監査人(CIA)、といった異色のダブルボードで活躍する医師も登壇しました。
【病院の外に活躍の場を広げる】
どんな状況にも対応する救急医の力は、臨床現場の外でも求められています。厚生労働省の医系技官や外務省での勤務など、行政の立場から社会に関わる事例、へき地医療や南極地域観測隊への参加経験、在宅診療へのシフト、救急クリニックの開業やフリーランスの救急医という働き方が報告されました。このほか、MBAを取得して病院のブランド構築に取り組む例、救急救命士の教育に携わる例も紹介されました。
【仕事と生活のバランスを考え直す】
長く働き続けるための、シフトの組み方や考え方も共有されました。「医師と家庭人のダブルボード」という視点、仕事か家庭かの二択にしないキャリアの築き方、「シフト制が必ずしも正解ではない」という問題提起などです。なかなか公にはできない、演者たちが必死にもがいて見つけ出したヒントは、リアルな会場でしか聞けない貴重な話だったと思います。
演者と直接話せる場として
今回のラウンジの特長は、演者と参加者が直接話せる場にしたことです。一方的に講演を聞くのではなく、距離の近い対話を重視しました。ダブルボードや新しい働き方に関心のある若手医師が、現場の話を聞いてその場で疑問を解消できるため、施設と若手医師のマッチングにもつながっています。リアルな出会いの場を提供することで、キャリア実現の可能性を高められます。
おわりに
今回はミドル世代以降も対象に加え、長く働くなかで起こりうる「ミドルライフ・クライシス」により現場を離れてしまうことを防ぐための議論もありました。何十年も意欲を保ち、必要に応じてキャリアを組み替える工夫は、これから歩み始める若手医師にも参考になるはずです。
救急医のキャリアは一律ではなく、関心やライフステージに応じて形を変えていけます。進路に迷っている方は、次回以降の学会でもぜひラウンジに来てください。先輩医師と直接話すことが、ご自身の描く救急医像を見つけるきっかけになればと思います。
◁過去の記事:救急医を続けていくために(多様なキャリアの実現にむけて)
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