《その4》救急科専門医育成への取組みについて
社会の皆さま
救急科専門医資格の取得は登山に喩えられます。目指す頂は全員が同じです。これは研修内容やその結果としての到達レベルの同一性に関係します。一方、登頂ルートは複数であり、これが研修の多様性に反映します。この同一性と多様性の兼ね合いは、診療においても重要です。状況に応じた必要な対応には共通性(=同一性)があり、同時に診療は個々の患者さんへのマニュアル的対応で事足りるわけではありません。この同一性と多様性は専門医研修制度においても重要であり、過去数年かけて検討してきた救急科専門医に関するプログラム制は同一性と多様性への配慮を心がけてきました。
救急科専門医を得た後も医師としての研鑽は続くのですが、これは比喩的にはより高い山を目指すことだと言えます。そこでも同一性と多様性が求められます。我々は地域に根差した救急医療と、これを支える救急科専門医の育成を目指しています。
日本救急医学会は平成29年度の専門医制度への対応を決定致しました。今回は、救急科専門医を目指す人や本会・会員への報告が中心です。
救急科専門医をめざす方へ
平成29年度の日本救急医学会・救急科専門医制度は以下の通り実施致します。
1)現行制度は平成29年度も継続します。
2)本会が既に一部実施してきた病院群ネットワークに基づく事前登録制も平行して実施します。
日本救急医学会・専門医制度は昭和58年(1983年)の認定医制度(専門医制度への移行は平成15年)に遡ります。現行制度の基本的枠組みは、キャリアベース(1年以上の専従歴を含む救急勤務歴に加え、経験症例リストによる診療実績審査)を基本に、筆記試験の合格によって専門医資格を得るものです。
この現行制度とともに、本会では平成26年度より事前登録制による専門医研修を一部で開始しています。この経験を踏まえ平成29年度から病院群ネットワークに基づく事前登録制を実施します。この制度は、専門医研修を行う研修病院群をあらかじめ設定し、専門医を目指す医師は、事前登録のうえ、計画性をもって研修を行うものです。これは本年2月から4月にかけ日本専門医機構・1次審査(暫定プログラムと称します)を基本とし、「日本救急医学会承認・救急科専門研修プログラム」として6月に本会が承認したものです。ただし、日本専門医機構・1次審査の承認内容を基本に、平成29年度はより柔軟に運用します。例えば、応募者が多く、採用が当初の定員を超えるような場合、特に地方を中心とした少数定員のプログラムでは、研修の質が担保される範囲内で、本会が持つ地域調整枠を適応し、各地域での多様な救急科専門研修が実施できるように致します。また、研修先や研修内容は研修開始時点ですべて決定するのではなく、年度ごとに救急科専攻医(救急科専門医をめざす医師)と各病院群の研修委員会が話合い、決めるように対応します。
専門医研修の質の担保は我が国の専門医育成の同一性を確保する上で重要であり、各地域の特性に合わせた研修の確保はその多様性に対応する上で等しく重要です。専門医育成における同一性と多様性の確保は、より良い救急医療には極めて重要な2つの基本軸と心得ます。
190ある「日本救急医学会承認・救急科専門研修プログラム」の基幹・連携施設の一覧は、本会ホームページならび本会運営HP「救急医をめざす君へ」に順次公開いたします。また、各プログラムの詳細な案内は、各基幹施設のHP等に公開していただきますが、このオープンは記載内容の最終的な修正を行い8月8日(月)以降と致します。各施設での募集開始、応募手続き、採用方法とその決定等の案内は、各施設のホームページ等で行われます。関連する重要な情報は、本会HPならび「救急医をめざす君へ」で引き続きご案内を致します。
日本救急医学会会員へ
190プログラムの統括責任者には別途連絡を致しましたが、平成29年度はプログラム運用を柔軟に実施致します。専門研修指導医に関し、論文執筆等の学術貢献および指導医講習会受講等の必要要件は緩和します。就業環境や雇用条件等は学会がこれを一律に定めるのではなく、各プログラム所属の施設の就業規則や雇用契約に従います。
現行制度では専門医資格申請に際し、現在の救急科専門医指定施設以外での救急専従・兼任および診療も、それぞれ「救急勤務歴」と「診療実績」の審査で認められる路が開かれています(http://www.jaam.jp/html/senmoni/senmoni_2011_2.pdf) 「救急科専門医新規認定申請 審査方法について」、参照のこと)。平成29年度に専門医研修を開始される医師についても、「救急勤務歴」と「診療実績」を満たせば、今後も同様の基準で審査を受けることができます。
なお、平成29年度に現行制度で専門医試験を受験される医師の資格審査受付は、例年通り平成29年1月から開始され、最終審査に位置付けられる筆記試験は平成29年9月実施予定です。
一般社団法人 日本救急医学会
代表理事 行岡哲男
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