救急医は眠らない!? ②【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】
第1章 こちら救命救急センター
救急医は眠らない!? ②
子どもたちも成長するとともに、またすっかり慣れてしまったということもあるのだろうが、夜間に救命救急センターから呼び出しがかかると、
「患者さん、助かるの?」
「うん、手術するから、多分、助かるよ」
「いつ帰ってくるの?」
「あさっての夜かな」
「お父さん、がんばってね!」
「うん、がんばるからね」
一家団栞、楽しく過ごしていても、緊急事態となれば、そうやって子どもたちは父を見送る。誰もが父の仕事を理解しているのである。
昨今、「がんばって」という言葉は相手の気持ちを考えずに使用するとプレッシャーを与えるだけだとか、あまり、がんばらないほうが精神衛生上いい、などの風潮もあったりするが、子どもたちに「がんばってね!」と声をかけられるのは、父親としてうれしいことではないだろうか。
「そういう点において、私が夜に呼び出されることは、子どもの教育にはいいのですが、土日に家にいないことは残念ながらいいことではありませんね。そのうえに約束しても守れないことが多いし」
明秀の度重なる転勤に伴い、特に高校一年の長男の元季は川口を含めて幼稚園と小学校をなんと六回も変わっている。そのことにふれると、明秀はこんなふうに言う。
「彼の人生において、転校はそれほど問題ではなかったのか、それとも決定的なものだったのか。何年かたって、あのときお父さんの転勤さえなければよかつたのだと、言ってくれなければいいのですが」
父として性促たる思いがあるのだろう。
家族そろってゆっくり遊びに行けるのは、やはり夏休みだろう。毎年、八丈島へ出かけるのが家族全員の楽しみとなっている。やがて、子どもたちが成長して高校生、大学生ともなると、それぞれの夏休みを計画するようになるかもしれない。家族がそろって旅行に行ける夏休みはとても貴重である。
こんなエピソードもある。それは当直明けの月曜日に休みをもらい、一度帰宅して少しだけ身体を休めてから、幼稚園に通っていた長女を雪の湯沢へ連れて行こうと昼ごろ迎えに行くと、先生の一人が、
「あら、お父さんとどこ行くの?」
「スキー……」
「いいわね。で、いつ帰ってくるの?」
「夕方……」
「えっ???」
長女は幼稚園のショルダーバッグをかけたスタイルで、父に手を引かれ湯沢に向かう。長女を連れて四、五回は山に登っている。このように、有効に時間を使って、子どもとのコミュニケーションが成立する。時間が生き物のように動いていくのなら、それに合わせて明秀自身も常に動いていなければ落ち着かないらしい。
「女房にいわせると、合理的ってことになるんだけど、自分ではなるべく無駄なことをはしないようにしています。これも救急やっていて身に付いたのかもしれないなあ」
次回に続きます…
本連載は、2005年に出版された書籍「プリベンタブルデス~ある救急医の挑戦」のものであり、救急医の魅力を広く伝える本サイトの理念に共感していただいた出版社シービーアール様の御厚意によるものです。
なお、診療内容は取材当時のものであり、10年以上経過した現在の治療とは異なる部分もあるかもしれません。
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