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《その1》新専門医制度に関する本学会からの最新メッセージ

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平成28年6月23日

救急科専門医をめざす方へ

行岡 哲男(ゆきおか てつお) 東京医科大学救急医学講座 主任教授 日本救急医学会代表理事

行岡 哲男(ゆきおか てつお)
東京医科大学救急医学講座 主任教授 / 日本救急医学会代表理事

専門医制度全体が大きな議論の渦に巻き込まれ、先行きが見え難い状況です。その中に在って救急科専門医の育成は、遅滞が許されない状態にあるのも事実です。少子高齢化による救急医療のニーズ増大は、救急搬送の経年的増加で捉えられ、平成27年には年間500万件を超えています。少子高齢化は数的な需要の増大だけでなく、単一臓器・単一疾患から多臓器・多疾患の救急患者を増やします。すなわち、単一臓器・単一疾患を念頭においた各科別診療を基本とする救急医療体制では、医療機関だけでなく地域レベルでも対応能力の低下が懸念されます。多臓器・多疾患への量的・質的変化を踏まえ、院内連携だけでなく地域連携を視野に入れた救急医療体制の構築は差し迫った課題です。

この救急医療体制の中核を担うのが、これからの救急科専門医です。救急医療では、患者が医療にアクセスした段階では緊急性の程度や罹患臓器も不明であり、患者の安全確保には、どのような緊急性にも対応できる専門医が必要です。救急科専門医の研修では、多様な疾病・外傷に対して、その重症度に応じた総合的判断に基づき、迅速かつ安全に急性期患者の診断と治療を進めるためのコンピテンシーを修得することができます。複数臓器の機能が急速に重篤化する場合、あるいは外傷や中毒などの外因性疾患では、初期治療から継続して根本治療や集中治療でも中心的役割を担うことが可能になります。地域ベースの救急医療体制、特に救急搬送(プレホスピタル)と医療機関との連携の維持・発展、さらに災害時の対応にも関与し、地域全体の安全を維持する仕事を担う能力も養われます。

このような多様な領域への“general”な入口として、救急科専門医研修は位置付けられます。3年間の専門医研修のみでは、もとより救急医療を極めた医師になることは望めません。その後の、より専門的で奥深い技能の研鑽と人格の涵養が必要です。

平成29年4月からは、これまで本会が中心となり策定した研修プログラムを基本として、また平成27年以前の医師免許取得者への移行的な措置を含み、救急医をめざす皆さんのニーズに合わせた柔軟な対応で救急科専門医の育成を実施することは本会の責務と考えております。

次回の救急科専門医に関連したご報告、特に、救急医を目指すことを検討されている方への情報は、6月30日に本会ホームページ内のウェブサイト「救急医をめざす君へ」に掲載を予定しています。是非、ご参照ください。

日本救急医学会会員の皆さんへ

専門医制度の議論が医学界内部で拡がる中、会員各位への情報提供が遅れたことにつきまして、ご容赦下さい。今回の活発な議論は、救急科専門医制度の更なるバージョンアップの機会と前向きに捉えたいと思います。

基本領域18学会の専門医研修は、平成29年4月から各学会に代わり機構が実施・運営を担当する予定でしたが、去る6月9日に、機構は平成29年4月からの専門医研修を断念し、同年度は各学会に委ねる方針を明らかにしました。

この決定を受けて、本会としては持回り理事会(6月16日)で、これまで機構に提出された資料であった救急科専門医の「専門研修プログラム整備基準」を、本会の「救急科専門医研修プログラム整備基準」として、また機構による1次審査(本会に委託されて本年2月から4月にかけ本会の事務所において審査実施)で承認された研修プログラム(研修施設群を含む)を「日本救急医学会承認・救急科専門医研修プログラム」として承認を致しました。

既に、ある地方では県の主導で研修プログラムの基幹施設となる病院の責任者を集め、その了解の上で、救急科専門医の機構による1次審査承認済みの研修プログラムの定員増や連携施設の追加を決定しています。この修正結果の報告先は、現状のままでは曖昧です。上記の持ち回り理事会の決議により、今後は「日本救急医学会承認・救急科専門医研修プログラム」として、本会がその変更申請を受取り、本会の研修プログラム委員会の確認・承認の上で返答をすることも可能になります。

さて、1次審査で承認された研修プログラムに関して、機構は2次審査を実施しない方針です。しかし、この機構による1次審査承認済みプログラムの内容は未だ公開されていません。そもそも来年度からのプログラム制による新たな救急科専門医制度の実施是非の議論は、当該資料を開示せずに行うことは不可能です。近日中に「日本救急医学会承認・救急科専門医研修プログラム」の190プログラムを示しつつ、アンケート調査を実施する予定です。アンケート調査の対象者には直接メールでご依頼を致します。このアンケート結果も参照しつつ、理事会で審議して本会の来年4月からの専門医研修への関わりを、7月上旬には決定したいと思います。

来年4月からの専門医研修に関しては、流動的要素が多いのですが、本会としてはこれまでの救急科専門医育成の経験・実績を踏まえて柔軟に対応し、責任をもって取組む所存です。会員各位のご協力をお願い申し上げます。

社会の皆さまへ

日本救急医学会(以下、本会)は、救急医療に関わる中核的な学術団体として救急科専門医を育成してきました。救急科専門医は、病気、けが、やけどや中毒などによる急病の方の診療を専門とします。病気の場所や臓器の別(頭、胸、お腹や脳、心臓、胃腸等々の区別)に関係なく、急病の患者さんの診療を行い、重症な場合には速やかに救命救急処置を行い、集中治療も担当します。これまでに本会が認定した救急科専門医は4,302名(平成28年1月1日現在)で、その名簿は都道府県別に集計してホームページに公開しています。

平成26年4月に「国民及び社会に信頼され、医療の基盤となる専門医制度」の確立を目指し日本専門医機構(以下、機構)が設立されました。本会も基本領域と称される18学会の1つとして、過去2年間、機構の専門医制度構築に参加し、話し合いを重ねてまいりました。

基本領域18学会の専門医研修は、平成29年4月から各学会に代わり機構が実施・運営を担当する予定でした。しかし、過去数か月、医学界内部での問題提起と議論の拡がりを受け、機構は平成29年4月からの専門医研修を断念し、同年度は各学会に委ねる方針を明らかにしました。

我が国の専門医制度はこのような状況にありますが、救急医療のニーズは増大が続き、またその内容も変化しつつあります。この変化に対応するためには、救急医療を支える救急科専門医の育成は待ったなしの状況です。専門医制度に関わる過去2年間の機構との話合いの中で、本会が特に配慮したのは、新制度による地域の救急医療への副作用的な悪影響の回避です。本会の救急科専門医の制度改革において、これは大きな関心事であり、最大限の注意を払ってまいりました。

機構は、7月1日より新執行部となります。この新執行部の方針も確認しつつ、他学会や関係団体の動向も踏まえ、本会は救急科専門医育成の主要なステークホルダーとして、より良き救急医療を目指し救急科専門医の適正かつ遅滞のない育成を推進する所存でございます。社会の内で活きる学術団体として、その説明責任の一端を果たすべくご報告を申し上げる次第です。

一般社団法人 日本救急医学会
代表理事 行岡哲男

公開日:2016年6月24日