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救急医になった理由② 【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】

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第1章 こちら救命救急センター

救急医になった理由②

県立青森高校に入学した明秀は大学進学については漠然としており、のんきにかまえていたようなところがあった。ただ、教科では生物が得意で成績は抜群によかった。本人も気づかないところで、医学への道の道標が立っていたのかもしれない。ただ、明秀は例のごとく、周りにも影響されやすいので、誰かが北海道大学や東北大学を志望するといえば、「なんだか、よさそうだなあ」と思うのだが、なぜか東京の大学に進みたいとは思わなかった。

「それが青森の人間のさがなんでしょうかね。東京は陸つづきなのに外国みたいな感じだった」と当時を振り返る。

あるとき同級生と会話を交わしているうちに、「そうか、医学部というのは日の当たるところで、医者になれば職業的にもみんなから尊敬され、生活も安定しているのだ」と明秀は思い込むのだが、入学できる人数は限られているし、自分は問題外だとも思った。ところが、自分より成績の悪い人でも医学部を志望していることがわかり、「医学部もいいのかな。受けてみようか」などと考えるようになった。どうやら、明秀が高校の成績で受験する大学を選んだという
のが事実のようである。

私がこれまで会った何人かの医師も学校の成績で医学部を選んだのを知っていたので、さらに認識を強くした。子どものころから医者にあこがれ医者をめざしてきたという人のほうが少ないのかもしれない。学校の成績だけで、職業を選ぶことに矛盾を感じたりするのだが、実際に医者は並々ならぬ能力が要求されるため、成績優秀であるということは重要だ。

さて、医学部も受けようと決めた明秀、早くも描く医者のイメージも固まっていた。それは都会の大学病院の医師ではなく、福島県の猪苗代で生まれ育った野口英世のようなイメージだった。野口英世といえば、子どものころに負った火傷がきっかけで医者になることを決意し、独学で医術国家試験に合格したが、日本では学歴のないことが妨げとなったため、南米に渡って黄熱病の病原菌を発見し、その研究に心血を注いだ人である。いわば、逆境をバネにして信念を貫いた偉い人というのが、私たちが子どもだったころに知った話で、「尊敬する人ベストテン」の上位にランクされるような人だった。長じてからは、彼に関する意外な面も明らかにされて、むしろ人間的な興味を抱かせる人物として映ったが、若い医学者たちへの支援を惜しまなかった研究者でもあった。明秀は、順風満帆の都会的でスマートな医師よりも、どちらかといえば、田舎育ちの逆境に強い野口英世に将来の自分を重ね合わせたのだろう。

いよいよ受験の時期が近づいてきた。

明秀は志望大学として、まず弘前大学医学部、そして将来的に水族館勤務というふわりとした夢も捨てきれずその布石としての東北大学生物学部と決める。ところが、ここで自治医科大学(以下、自治医大)というあまり耳にしたことのない大学を受ける同級生がいると知って情報を集めてみると、へき地に行く医師を養成する大学だという。これにはなんの抵抗もなかった。しかも、学費がタダなので(このシステムについては後述)、都道府県から各二、三人しか入学できないという狭き門。さらに青森高校では自分よりも成績のいい人間が受験するというので、「これはかなりむずかしいかもしれない」と思ったが、明秀は医者としてのイメージが自分に近いことから自治医大を受験することにした。

青森市で行われた自治医大の一次試験に合格、二次試験は本拠地の栃木県へ受けに行った。宿泊先の旅館には各都道府県からやつてきた賢そうな受験生ばかりがいるので、「こんな人たちが受ける自治医大っていうのはすごいなあ。ひょっとして、これも一流の大学なのかなあ」などと感心することしきりだつた。

自治医大と東北大学に見事合格した明秀は地元の弘前大学医学部も魅力的だったが、迷うことなく受験せず、東北大学へも断りの手紙を出して、自治医大に進学することに決めたのである。自治医大は各都道府県から二、三人しか入学できない。青森県出身の残りは、青森高校の同級生と八戸高校の一人だった。自治医大の六期生として入学したのである。

次回に続きます…

プリベンタブルデスーある救急医の挑戦本連載は、2005年に出版された書籍「プリベンタブルデス~ある救急医の挑戦」のものであり、救急医の魅力を広く伝える本サイトの理念に共感していただいた出版社シービーアール様の御厚意によるものです。
なお、診療内容は取材当時のものであり、10年以上経過した現在の治療とは異なる部分もあるかもしれません。

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公開日:2017年7月27日