心臓破裂が教えてくれたこと②【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】
第2章 救命、そして再生への道
心臓破裂が教えてくれたこと②
午前八時半、右心房破裂の手術が終了した。
「胸の皮膚を縫って」
明秀は医師の一人に胸を縫合させ、その間に開腹手術を開始した。肝臓破裂部を縫って止血した。別の医師には左大腿創外固定の応急手術をさせて大腿の出血を止めた。しかし、肝臓の止血が完全ではなかったので、血管造影室で大ももの動脈から肝臓まで管を入れてカテーテルによる肝動脈の止血術を行った。これを塞栓術という。
ICUに戻ってきたのは午後六時。なんと十二時間にもおよぶ救命処置で、鈴木さんは血液全体の半分以上の大出血だった。一六単位の輸血(献血一六人分。普通、一人の健常人からの献血は一単位二〇〇ミリリットル)、約三リットルを輸血した。鈴木さんの全血液量は約三・六リットルである。
ICUでは、下がった体温の復温、アシドーシス(動脈血のpHが七・三五以下になった状態)の補正、出血しやすい状態の補正、血圧尿量の管理、人工呼吸、痛み止め、などいろいろな治療が行われ、ICUを出るまでは予断を許さない状態が続いた。
①出血しやすい状態、止血不能状態、②体温低下、③アシドーシス(普通の人間の血流のpHはほぼ七・四だが、これが酸性に傾く状態)、この三つがそろうと「死の三徴」という。外傷集中治療において、早期に改善しないと生命を失うことになる。尿の量が減った、熱が上がった、原因は何か?と少しでも症状に変化が起きれば、その瞬間に処置していかないと重症の患者は助からないので、二十四時間体制でつきっきりの看護が展開された。
三月二十九日に四日間の人工呼吸が終了して四階病棟に移り、四月一日から食事も開始。そして八日には、骨折したときの創外固定手術だけでは歩けないため、大腿骨に芯棒を入れる手術を行う。十九日からはリハビリが開始されたが、若いので回復が早かった。
六月十二日、鈴木さんは松葉杖をついて退院したのである。
次回に続きます…
本連載は、2005年に出版された書籍「プリベンタブルデス~ある救急医の挑戦」のものであり、救急医の魅力を広く伝える本サイトの理念に共感していただいた出版社シービーアール様の御厚意によるものです。
なお、診療内容は取材当時のものであり、10年以上経過した現在の治療とは異なる部分もあるかもしれません。
早く続きを読みたい、書籍で読みたいという方は
http://www.cbr-pub.com/book/003.htmlや
Amazonから購入できます。