日本の救急医療とER③【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】
第3章 救急こそ医療の原点
日本の救急医療とER③
ERといえば、真っ先に思い浮かぶのがアメリカのテレビドラマで、日本でも放送されて人気を博した。あれから10年以上がたってしまったが、私もこのドラマを興味深く観た。
毎回、次から次へと重症、軽症のさまざまな患者が搬送される救急現場のスリリングな展開は、ドラマにもかかわらず、あたかも現実に起こっているかのような錯覚に陥って、「ああ、助かつてほしい」などと願わずにはいられない。
赤ん坊から高齢者までさまざまな患者の背景、そして昼夜を問わず患者の受け入れ処置にあたる研修医をはじめとする医療スタッフたちの生活や心情も垣間見える。患者と医療スタッフとの間で交わされる会話の中には、それぞれの死生観も浮き彫りにされている。そして、つくづくERは社会の縮図であると思うのだ。
このリアリティあふれるドラマのおかげでERという言葉はすっかりお馴染みになったが、人々の目に映ったERと日本における従来の救急医療とはどう違うのだろうかと思う人も多いのではないだろうか。
ERとは EmergencyRoom の略で、日本では「救急外来」「救急救命室」などと訳されている。テレビドラマではアメリカのシカゴにある総合病院が舞台になっているが、北米やカナダのトロントなどで行われているERの救急システムを指して北米型ERとも呼んでいる。
ERシステムは、軽症から重症まですべての患者を、何科だろうと、どんな時間帯だろうと受け入れることを第1とする。それは患者側に立った医療の論理である。
患者の症状によって専門医療の必要性があるか、または救急部門で完結するかという判断を行う(初期診療)。とにかく、自分が救急患者だと思っている患者すべてを受け入れるのであるから、たいへんな患者数になる。しかも、どんな症状でも診療する医師が必要となってくるので、ここでは「専門ではないから診療できない」は通用しない。患者にとって目の前の医師は、当然「診療してくれる医師」としてしか映らないのであるから。
病院の救急外来には、心肺停止から頭痛、腹痛、熱傷、外傷、そして風邪に至るまで、あらゆる症状を訴える患者が来院してくるが、そうした患者のニーズに応えるべき医師は、内科、小児科、外科、脳外科、産婦人科、皮膚科、整形外科、眼科、耳鼻科、歯科、精神科のすべての医療の基本的知識と技術をもつて、救急患者の初期診療を行わなければならない。それがERドクターで、専門治療を必要とする患者を見つけ出して専門医に引き継ぐ場所がERということになる。初期診療を行える医師の存在、それは医療の世界に求められるべき本来の医師の姿でもあるのではないだろうか。
前述したように、現在の救急医療は、すべての患者を受け入れる体制ではなく、患者の重症度に応じて受け入れ医療機関を区別している。救急隊の判断で症状を医療機関に伝えて搬送すれば比較的適切な判定を受けやすいのだが、患者自身がタクシーに乗って病院へ行って頭痛を訴えれば軽症と判断されて、結果的に軽症だった場合はいいが、実は重症で死に至るというケースもあるのだ。ERでは,軽症と思われる患者の中に重症の患者を見つけ出すことを第1義的課題のひとつとしている。
次回に続きます…
本連載は、2005年に出版された書籍「プリベンタブルデス~ある救急医の挑戦」のものであり、救急医の魅力を広く伝える本サイトの理念に共感していただいた出版社シービーアール様の御厚意によるものです。 なお、診療内容は取材当時のものであり、10年以上経過した現在の治療とは異なる部分もあるかもしれません。
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