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救急が研修医を鍛える②【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】

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第3章 救急こそ医療の原点

救急が研修医を鍛える②

2004年4月、36年ぶりに新医師臨床研修制度が導入された。それまでの研修医制度では、医師免許を取得後、2年以上の臨床研修を積むことが”努力義務”だったため、研修医の約4割が研修プログラムにそった研修を受けていなかったというのが実態だった(医学連調査)。

しかも、給料は国公立大学病院で20万円弱、私立大学病院の半数は月額10万円以下という低賃金。これを補うために大学病院の研修医の8割以上が民間病院でアルバイトをしていた。

民間病院側にすれば、人員不足もあり、研修医たちは貴重な労働力でもあったのだが、実際は未熟なままに当直を行い、翌朝には大学病院へ向かうという生活が続いていた。そして、かなりのハードワークのため過労死した研修医もいた。

1998年8月、関西医科大学の研修医(当時26歳)が急性心筋梗塞で死亡した。遺族は「息子を労働者として扱わなかったことは違法である」「息子が死亡したのは過酷な勤務が原因」として同医大に約1億7200万円の損害賠償を求める裁判を起こした。

1審の大阪地裁判決では約1億3500万円の支払いを命じていたが、2004年7月の控訴審判決において大阪高裁が1審判決を変更、賠償額を約8400万円とした。研修時間が優に1カ月300時間を超え、かなりの過労状態だったのに大学側が放置し、健康管理を怠ったことが突然死の原因」と指摘された。

同医大は「判決の内容を10分検討し対応したい」としているが、現在、最高裁と大阪地裁で係争中である。

しっかりした教育も監督もないまま、救急患者の診療に当たって医療ミスを引き起こしたケースも多々あった。研修医であっても、患者にとってはそこの病院の医師としてしか映らない。

本来は、夜間に自分の専門以外の患者が飛び込んできたときでも、基本的な対応できることこそ医師のあるべき姿であると思う人は少なくない。新しい医師研修医制度は厚労省が掲げる「幅広い診療能力の育成と人格形成」をめざした医師の育成である。

大きな柱は、人格の涵養、プライマリ・ケア(幅広い病気に対応できる能力)、経済的保障。以前との大きな違いはなんといっても、内科、外科、救急部門、小児科、産婦人科、精神科および地域保健。医療を必修科目とし、それぞれ1カ月以上研修するという、スーパー・ローテーション教育になったことだろう。

旧制度では、希望の科で研修を受けてそのまま専門化ということになったが、これでは医師として最低限必要な技術を持たない極端に専門化した医師ができ、知識の幅が狭いので、複数の病気を持つ患者の対応には限界が出てくるのだ。

新医師研修医制度では、定員が10床に1人の研修医、あるいは年間100人以上の人院患者に1人となった。給与は30万円以上とし(アルバイトは禁止)、研修プログラムは大学病院中心の体制を改め、最初の1年間は内科、外科、救急部門を基本診療科としての研修が義務づけられたことだ。次の12カ月(2年目の研修)は小児科、産婦人科、精神科および地域保健・医療を必修科目としてそれぞれ1カ月以上研修することとある。

さらに、以前は研修医の募集方法の規定というものはなかったのに対して、マッチング(組み合わせ決定)方式として、公募で研修医を採用する場合、全国1斉にすべての研修希望者と研修病院が合理的かつ効果的に組み合わせを決定できるシステムとなったのである。

研修病院がそれぞれに公募で研修医採用を行う場合、研修希望者が複数の施設に採用希望を出すことになるが、これに伴い内定辞退による欠員や過剰採用への対応が必要となってくる。

実際の研修医たちは、たとえば最初は漠然と内科志望だったのが、ローテーションしていくうちに産婦人科もいいかなと思い始めるなど、専門科に入る前に自分はどこへ行ったらいいのかと迷っている場合に相談できるような研修教育システムであるのが心強いという。

いずれにしても、新医師臨床研修制度の改革の大きな特徴である7科を研修するということによって、幅広い医療知識と技術を習得できるようになる。

特に救急医療の現場は、子どもの風邪ひきから交通事故の外傷、心肺停止まで、とにかくいろいろな症状の患者がやってくるわけだから、研修医にとっては腕を磨く絶好の場なのである。しかも、多種多様な患者やその家族との対応の1つ1つが勉強になる。

次回に続きます…

プリベンタブルデスーある救急医の挑戦本連載は、2005年に出版された書籍「プリベンタブルデス~ある救急医の挑戦」のものであり、救急医の魅力を広く伝える本サイトの理念に共感していただいた出版社シービーアール様の御厚意によるものです。 なお、診療内容は取材当時のものであり、10年以上経過した現在の治療とは異なる部分もあるかもしれません。

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公開日:2018年1月29日