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救急医は眠らない!? ①【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】

第1章 こちら救命救急センター

救急医は眠らない!? ①

川国市立医療センター救命救急センターについては、これまでも書いてきたが、いつでも重症患者を断らない、むずかしい外科手術、完結型の救急医療をめざしている全国でも数少ない医療施設である。ここでは働く医療スタッフたちは、フル稼働だ。救急医の宿直は当番制になってはいるものの、緊急の場合には休みの日でも呼び出される。

今明秀の右腕である土佐医師は家族と泊まりがけで遊びに行くのは年に一、二回しかない。珍しくディズニーランドヘ遊びに行った日に「手術する人がいないので至急来てくれないか。待っている」との連絡を受け急返センターヘ行き、手術を終えて再び浦安へ戻った。二年後の休日にもディズニーランドにいて「来てくれ」とセンターから呼び出されているのだ。「なんでまた、ディズニーランドに来たときにかぎって」と笑い話になるのだが、そのときは一刻も争うような事態だったので、現場へ急いだのだが、もしかすると、土佐医師はディズニーランドの中を知らないのかもしれない。

明秀も二人の子どもたちとの約束は守れないことのほうが多かった。

「お父さん、今度の土日はうちにいる?」

子どもたちの誰かが明秀に聞いてくる。

「いないよ、仕事があるから」

「そうかあ」

少し寂しそうな顔をする子どもたち。明秀は青森の野辺地病院に勤務していたときはまだ子どもと遊ぶ時間があったが、川口に来てから責任ある立場になってくると、一人の救急医としての現場の仕事以外でも出かけることが多くなったのである。忙しい医師ほどさらに忙しくなってしまう。救急隊の指導、救急医の教育、院内外における救急の標準化普及(診療に従事する医師や救急隊員、医療従事者にガイドラインを提供すること)といった活動のうえにさらに、週に三日の宿直があるため、それらに当てる時間は休日や余暇ということになる。人に頼まれれば、意気に感じて断らないのも明秀のいいところで、気がつくと半年先のスケジュールまで埋まっている。よほどのことがないかぎり、救急医療に関わる活動を優先させる。

それはこんな具合である。

「四月の土日に上尾市でセミナーがありますが、空いていますか?」

明秀の元に電話がかかってくる。

「空いています」

即座に引き受ける。また、別の日に電話がかかってくる。

「十月の土日に広島でHTLS(HhiroshimaTraumaLifeSupport:広島外傷救命処置)講習会の講師をしませんか?」

「おお、予定しておきます」

そのほか、日本救急医学会など年間スケジュールに組まれた学会も含め、当直以外の日はほとんど行事で、先までのスケジュールが埋まっていくと、子どもたちが休みの土日には家にいないことが多くなり、また、約束しても守れないときなどは父も子どもたちもつらいものがあZの。

たとえば、来週の土日のいずれかにディズニーランドに行く約束をする。父もそのつもりでいる。ところが、約束の日の前日夜遅くに、

「交通事故の重症患者が搬送されました。どうしても今先生に来てもらいたい」

緊急の電話が来れば、明秀は「はい、急いで行きます」と返事をする。その時点で子どもたちとの約束は反故になってしまう。重症患者の場合は、長時間の手術で一命をとりとめたとしても予断を許さず、ICUでの治療が続けられていくからだ。

「ごめんね、明日行けなくなっちゃったよ。今度だね」

「今度って、いつ?」

子どもたちは楽しみにしていただけにがっかりする。父としても胸のつまる思いだが、患者が待っている病院へ向かうのである。

次回に続きます…

プリベンタブルデスーある救急医の挑戦本連載は、2005年に出版された書籍「プリベンタブルデス~ある救急医の挑戦」のものであり、救急医の魅力を広く伝える本サイトの理念に共感していただいた出版社シービーアール様の御厚意によるものです。
なお、診療内容は取材当時のものであり、10年以上経過した現在の治療とは異なる部分もあるかもしれません。

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書籍連載   2017/08/14