single.php

メディカルコントロール①【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】

Home » 書籍連載 » メディカルコントロール①【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】

第3章 救急こそ医療の原点

メディカルコントロール①

救急医療の歴史が古く、1歩先を行っているアメリカにはEMS(EmergencyMedicalServices)という分野があり、そこではプレホスピタルケアに付随するさまざまなことを専門に扱っている。

具体的には、救急患者に関わる部分と、災害時などに患者が発生する前の予防医学的な部分の2種類に大別され、病院前の医療の標準化、プレホスピタルケア・プロバイダー(日本の消防士や救急救命士にあたる)の教育、そして法的問題などを扱っているのである。

日本の救急医療における救急隊の位置づけに変化が表れたのは、1990年代に入ってからだろう。

特定医療行為を含む高度救命処置ができる救急救命士の国家資格が創設されたのを機に、救急隊と医療施設との関係が徐々に変化した。当時の救急救命士の資格を具体的に説明すると次のようになる。

〈消防機関の救急業務を担う救急隊員が、救急救命処置のうち、心肺停止状態にある重症傷病患者に対して、(1)除細動(電気ショック) (2)乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保のための輸液 (3)食道閉鎖式エアウェイまたはラリングアルマスクによる気道(空気を送る道)確保などの救急救命処置を行うことができる者〉

実際にこれらの一定の救急救命処置を行う場合には、救急車の無線機か自動車電話から、医師の「具体的な指示」を得ることが必要とされた(除細動については、2003年4月より包括的指示下において可能になった)。また、救急救命士の研修を受ける資格は、救急標準資格といわれる勉強のほかに、5年または2000時間以上の救急業務に従事していること。そして国家試験に合格し、就業前研修として病院研修を受けて晴れて救急救命士になれるというものだった。

日本の救急救命士というのは、1966年にアメリカで導入された救急医療制度のパラメディックをモデルにしている。「パラメディック」という言葉は、パラシュートメディック(パラシュート衛生兵)が語源で、戦場で負傷者の手当をするとき、現場での救命処置の必要性が深く認識され、パラメディック隊員の応急処置技術の内容は現代のアメリカ社会の中で大きく関わってきた。州政府からライセンスを与えられた高度救急医療技術者というのは、気管挿管、除細動、各種薬剤を用いて注射や点滴を行うことができる人のことである。

20年ほど前までの日本の救急隊は、消防の片手間の仕事のように扱われ、ただ重症傷病者を早く病院へ運ぶしかなく、「運び屋」などと見なされていた。だから、前述したような「たらい回し」も多かった。「助けたかったのに助けられなかった」「助けるためにはどうすべきか」「いまの病院側の受け入れ態勢ではだめだ」と救急隊員の意識は「真の救急」を追求する方向へ、また医師たちも患者救命の初期段階として救急搬送の重要性を理解するようになった。長年にわたる苦い経験から医療機関と消防機関とは信頼関係を築きながら、1歩1歩、改善への道を歩んでいったのである。

次回に続きます…

プリベンタブルデスーある救急医の挑戦本連載は、2005年に出版された書籍「プリベンタブルデス~ある救急医の挑戦」のものであり、救急医の魅力を広く伝える本サイトの理念に共感していただいた出版社シービーアール様の御厚意によるものです。 なお、診療内容は取材当時のものであり、10年以上経過した現在の治療とは異なる部分もあるかもしれません。

早く続きを読みたい、書籍で読みたいという方は http://www.cbr-pub.com/book/003.htmlや Amazonから購入できます。

公開日:2017年12月25日