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メディカルコントロール②【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】

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第3章 救急こそ医療の原点

メディカルコントロール②

2004年7月から、救急救命士の救急現場における気管挿管の実施が可能になった。心肺停止患者の気管に管を入れて気道を確保する気管挿管を行うことができるのは、基礎講習の受講や手術の際に全身麻酔をかけた患者に対する30症例の実習経験をもつ救急救命士である。

救急救命士の気管挿管が可能になるまでは各方面で議論があった。きっかけは、2001年11月、秋田県で救急救命士が関連省令で禁止されている気管挿管を使用して気道確保を行っていたと報じられたことだつた。その救急隊では、呼吸停止の患者を病院に搬送する際に、医師に気管挿管を行っていいかどうかを確認したうえで行っていたらしい。

その後、秋田だけでなく青森、山形、新潟の一部消防本部においても気管挿管が行われていたことが発覚して全国的な問題としてマスコミに取り上げられた。医師にしか認められていない治療行為を救急救命士が行ったということが問題にされたのだが、議論は自熱した。

日本医師会などのような絶対反対派は、心肺停止状態に陥る前の段階では、気管挿管で症状を悪化させる場合もあるということも含め、気管挿管の難しさと危険性を強調した。一方、賛成派は呼吸停上の患者に対して速やかに気管挿管ができ、救命の確率が高まることを考えれば挿管を認めてもいいのではないかという意見である。

論争の背景には、やはり救急救命士にどこまでの医療行為をさせるのかという基本的な位置づけが確立されていない救急医療全般の脆さが見えるが、さまざまな経緯があって救急救命士の気管挿管は認められたのである。

2000年5月に提出された厚生労働省の「病院前救護体制のあり方に関する検討会」の報告書に初めて登場したメディカルコントロール(MC)制度というのがある。直訳すれば、「医学的管理」「医学的調整」となるが、救急現場から医療機関へ搬送されるまでの間に、救急隊員が医療行為を実施する場合、その行為を医師が指示または指導、助言および検証してそれらの医療行為の質を保障することを意味する。

さらに詳しく説明すると、直接的MC(オンラインMC)と間接的MC(オフラインMC)とがある。直接的MCは救急現場または搬送途中の救急隊員が医師と電話や無線などで医療情報を交換し、医師が口頭で直接処置などに関する具体的な指示などを行うこと。間接的MCは、地域の救急医療体制を構築したうえで、救急隊員の教育。実習カリキュラムの作成。実施および評価を行い、また救急処置などのプロトコール(手順)の策定や重症度の検討・評価や医療行為に関する検証および質の向上のために医学的評価を行う必要があり、それを救急隊員が、救急救命士の教育・実習ヘフィードバックするというものである。

次回に続きます…

プリベンタブルデスーある救急医の挑戦本連載は、2005年に出版された書籍「プリベンタブルデス~ある救急医の挑戦」のものであり、救急医の魅力を広く伝える本サイトの理念に共感していただいた出版社シービーアール様の御厚意によるものです。 なお、診療内容は取材当時のものであり、10年以上経過した現在の治療とは異なる部分もあるかもしれません。

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公開日:2017年12月28日