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救急と災害医療―新潟中越地震、緊急救援ヘ⑧【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】

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第3章 救急こそ医療の原点

救急と災害医療―新潟中越地震、緊急救援ヘ⑧

11月1日(月)

◎魚沼病院へ転送

本日より堀内町、小出町などが合併し魚沼市になるそうだ。しかし、これらと接する川口町は何が理由か知らないが、単独で町を維持するそうだ。平時では5700人の人口で高齢化率は27%の、宿場町として有名だそうだ。地震により、病気の老人などは町外の親戚知人の下に疎開した。残る住民は毎日少しずつ減っている。過疎の町はこの地震でさらに人口の減少を見るはずだ。町を単独では維持することはむずかしいのではないだろうか。

朝、心不全の患者が末広荘へ運ばれた。ドーパミンを開始し、酸素投与しながら、小千谷市の魚沼病院へ搬送した。心電図12誘導は末広荘では採れない。もちろん血液検査は不能だ。血糖検査キットを持ち込めば少しは診療の幅が出たのかもしれない。

朝のミーティング後、小学校、中学校、ぬくもり荘という老人施設の診療の申し送りをしながら診療した。後任は国立栃木病院だ。彼らは、本日正午から、明日正午まで当番で、その後は、別の国立病院が受け持つ。1病院が24時間を受け持ち、その後に撤収する。1人100メートルずつ走るリレーもいいが、住民のことを考えると、1人400メートル走るリレーのほうが有効だ。さらに長ければもっといい。

今回、八戸チームは5日間の継続医療を展開し、地域住民と役場職員の信頼を得ることができた。リコちやん、エリちゃん、マリちゃんとも自分の娘同様に仲良くなった。継続医療、継続看護、継続保健、被災地では重要なキーワードだ。

昨日から、持続点滴を行ってきた発熱と尿閉の82歳の男性は解熱し、食事も取れるようになった。中居薬剤師が持ってきた抗生剤が効いたようだ。避難所を受け持っている千葉県看護協会派遣の訪問看護チームも徹夜で看護してくれた。町役場から借りたベッドも役立った。神田看護師が作った等の柄の点滴台も役立った。朝になり、笑顔で私の手を握って喜んだ。

この避難所で危機的状態から、命を救うことができた。平時では、尿路感染症はよくある病態だが、この劣悪な環境では悪化する危険が十分ある。82歳の老人にとつて悪化は死につながる。患者さんの改善を確認し、予定通り小千谷市の魚沼病院へ救急車で搬送した。小千谷市の病院も被災地だ。地元の病人だけで手一杯のはずなのに、川口町の患者を受け入れてくれる。

「はい、受け入れ可能です」

透き通るような救急外来の看護師さんの声だった。

役場前に待機していた救急車は、すぐに中学校へ到着した。老人は避難所の住民に見送られ、魚沼病院へ出発した。Good job!

救急車の要請は、119ではなく、役場の保健課に電話する約束だ。119だと小千谷市につながり、対応が遅れるからだ。救急要請から6分で救急車が到着した。6分というのは全国平均だ。

川口診療所の内田先生を訪ねてみた。待合室には数人のけがをした患者さんが待っていた。看護職員は私服で対応していた。内田先生は日曜日の休息がよかったのか、ひげをそり、顔色もよく笑顔で答えてくれた。

前田看護師と私が午前診療を行っているあいだ、男性スタッフは役場で救援物資の仕分けと輸送を受け持った。

役場裏の倉庫、国道沿いの倉庫、ぬくもり荘の倉庫には心のこもった物資が山積みされていた。その中から医療に使えるものを仕分けする。各家族に体温計を1本ずつあげたい。しかし、救援物資の中には少なかった。家庭医薬品の中には風邪薬と胃薬が多かったが、湿布薬やうがい薬は入っていない。今後は役場職員への応援が必要だ。それも仕事を任せられるためには長期間とどまることが必要。また、いざ八戸市が被害をこうむったときは、協定を結んでいる自治体へ市役所職員の応援を早期に頼むべきである。

◎撤収

撤収の道のりは険しいようで、鉄道、一般道、高速道路とも不通。最初の目的地はバスが走っている六日町だ。そこまで車で移動し、車をトヨペット六日町へ返却し、その後路線バスで移動。湯沢町まで行けば新幹線が通っている。何時に新幹線駅につけるか予想がつかない。夕方になってしまえば、宿泊することも考える。宿泊となれば、荷物がたくさんあるので駅直近のホテルや旅館に入ることになるだろう。チーム員たちも笑顔になっていた。救援活動成功の充実感、自分自身の安全、あと少しで八戸だという安心感からだ。

高速道路から遠くに見える、冠雪でコントラストが際立っている霊峰八海山を南に見て、出発だ。川口町の住民の健康と我々の帰路の安全を願って、八海山に向かい手を合わせた。

次回に続きます…

プリベンタブルデスーある救急医の挑戦本連載は、2005年に出版された書籍「プリベンタブルデス~ある救急医の挑戦」のものであり、救急医の魅力を広く伝える本サイトの理念に共感していただいた出版社シービーアール様の御厚意によるものです。 なお、診療内容は取材当時のものであり、10年以上経過した現在の治療とは異なる部分もあるかもしれません。

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公開日:2018年4月5日