危機的対応
救急医は,『いざ』という時に本領を発揮します。
『いざ』はいついかなる時に起きるのか、わかりません。
日常生活で、旅先で、病院内で、その時は訪れるかもしれません。
時には事件や事故現場で『いざ』が求められることもあります。
救急は医療の原点であり、そこで、そのときに、苦痛で助けを求める人々、負傷した人々に手をさしのべることが救急医の原点です。
救急医はいろいろな場面で、いろいろな時に、いろいろな人の、『いざ』という時に、自信をもって手をさしのべることができる医師です。
人々の社会生活に安心と安全をいつでも提供できる、そんな存在であることが救急医のプライドです。
院内急変
病院入院中の患者さんが急変したり、術後の患者さんが呼吸困難をきたしたり、様々な専門診療科の先生が困った時などにも、救急医は相談を受けます。重症度を評価し、今後の臨床経過を予知し、時には蘇生処置、集中治療など、院内の不測の事態に対応します。
最近ではrapid response teamとして、院内の急変対応を始め、予め危険を予知して適切な診療を主治医からバトンを受け取って、安定化させるために全力をつくします。
また、『いざ』という時に立ち向かえるために、院内蘇生対応の教育やそのシステム作りにも主役を担います。救急医は、病院内における『いざ』に備えています。
Public scene
よくドラマや映画などで、『お客様の中で医師の方はいらっしゃいますか?』のアナウンスが航空機や電車車両で流れる光景を目にしたことがあると思います。
現在では事前登録制も導入されたことは耳に新しいかと思います。驚くことに、救急医にはかなりの確率でそのような場面に遭遇しています。それは、間違いなく自信を持って手を挙げられるからです。
公共の場における『いざ』は、時に航空機や船舶の発着にも影響を及ぼす可能性もある重要なミッションにもなり得ます。みなさんは公共の場面でアナウンスがあった時、迷わず自信をもって挙手できるでしょうか?日々の緊迫した現場での積み上げが、public sceneにおける『いざ』につながります。
事件・事故現場
多数傷病者が発生する事件や事故、労働災害現場でも、救急医が力を発揮する『いざ』があります。
自身の安全を確保し、警察、指揮隊、消防隊、救急隊、など各プロフェッショナルチームと連携して、傷病者の救出・救命に尽力する現場です。
救急医はこのような『いざ』と言う時には、迅速で適切な重症度評価と優先度順位判定、つまりトリアージを躊躇なく行います。そして、傷病者を安全に医療機関へ搬送するための必要最低限の現場処置を実施し、傷病者を、適切な医療機関へ、適切な時間内に搬送することに全力を注ぎます。
つまり、救急医は事件・事故現場の『いざ』においても、The right patients, in the right place, at the right timeを自らのミッションと心得ています。日常の救急外来や救命センターにおける奮闘が、事件事故現場における『いざ』において力を発揮します。
『いざ』という時のために
救急医に『いざ』はいつ起こるかわかりません。『いざ』に備えて、普段から様々なシチュエーションを設定して訓練し、準備を重ねます。我々に“想定外”はあってはならないからです。『日常生活の一部として有事の対策』を行い、日々錬磨しているプロフェッショナル集団、これが救急医です。
(文責;筑波大学医学医療系救急・集中治療医学 井上 貴昭)