ED (Emergency Department)
エビデンスに基づいた診療
混雑する救急外来で指導医の佐藤医師が初期研修医の田中医師からプレゼンテーションを受けました。
「4歳男児の頭部外傷の方です。お母さんの運転する自転車が転倒し、受傷しています。…お母さんはとても心配していて頭部CTを希望されているのですが、こどもは診察室で元気に遊んでいて、ヘルメットをかぶっていたので頭部に皮下血腫もありません。○○のガイドラインや○○の基準を参考にすると、私の判断としては、頭部CTは必ずしも必要ないんじゃかいかと考えています。」
「田中先生、よく勉強しているのが分かるプレゼンテーションだね!心配なお母さんの気持ちに共感しつつ、CTの被爆についても説明してベストな決断に結びつけましょう!それでは、一緒に診察してみましょうか。」
ED(Emergency Department)では、たとえ軽症であってもエビデンスなど根拠に基づいた診療を行います。さらに、それら総合して個々のケースのベストを考え診療に臨みます。
トリアージ
肘内障の男児の右肘を整復している佐藤医師のところに、信頼する加藤看護師が心電図をもって駆け寄ります。
「佐藤先生!心窩部痛の65歳男性です。痛みが続いているので心電図をとってベッドでモニターをしています!」
「加藤さんありがとう!心電図ではII, III, aVfでSTが上がっていますね!緊急カテーテル治療が必要だ!対応しましょう。チーフレジデントの石田先生!65歳の太田さんが心窩部痛で来ていてSTEMIです。緊急カテーテル前提で進めてもらっていいですか?」
そう指示すると、佐藤医師はすぐに肘内障の整復に戻りました。こどもを泣かせないように笑顔で優しく整復をしたところ、腕はすぐに動くようになりました。こどもも母も大喜び。
「せんせー、ありがとー」と親子は笑顔で診察室を出ていきました。
さて、先ほどのSTEMIの男性ですが、循環器内科医とのスムーズなコラボレーションで来院から20分後に男性はカテーテル室に移動して治療を開始しました。
このように複数の患者さんを診療するために、迅速で正確なトリアージを行い患者さんの緊急度に応じて診療をすすめます。
マルチタスク
救急車の入電が入ります。
「75歳女性 心肺停止の患者さんの受け入れ要請です!」
加藤看護師 「救急外来のベッドをすべて使用しています!どうしましょうか?」
佐藤医師 「心肺停止なら一刻の猶予もない!なんとかベッドを作って受け入れましょう!」
その後、必死の救命処置をしましたが残念ながら患者さんに反応は見られませんでした。
心肺停止の患者さんのご家族に
「先生どうして!どうして!お父さんがこんなに急に!もうどうにもならないんですか?」
といわれたチーフレジデントの石田医師。
「本当に残念です。救急隊も我々もベストを尽くしました。これ以上の蘇生行為はお体を傷つけることになってしまいます。」
と忙しい救急外来をマネジメントしながらご家族に真摯に向き合って家族にとって大切な最期の時間を作ります。
EDでは重症から軽症まで複数の患者さんをそれぞれの状況・タイミングを考えマルチタスキングをこなしながら診療していきます。さらに、診療のマネジメントだけでなく、EDという空間のマネジメントをすることも救急医の仕事です。
EDは医の原点
心肺停止の男性のお見送りに際してご家族より言葉をかけられた石田医師。
「先生、さきほどは動転してしまいすいませんでした。父が突然なくなったことは本当に悲しいことです。しかし、石田先生の働いているこの病院で最期を看取っていただいて父は幸せでした。ありがとうございました。」
EDは現代の駆け込み寺です。救急患者・救急搬送は年々増え、その内容は多様化している。多忙で、ストレスもあります。
しかし、「病める人に向き合い、癒やす」という医療の最も根源的な原点はEDにあるのです。学生・初期研修医のみならずすべての医療者にとって医療の原点・プロフェッショナリズムを学ぶことのできる最高の教育の場なのです。
ぜひ一緒に医療の原点でやりがいのある仕事をできればと思います。