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救急が研修医を鍛える①【プリベンタブルデス ある救急医の挑戦】

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第3章 救急こそ医療の原点

救急が研修医を鍛える①

いい病院、いい医師とは?日本の医療のあり方が問われ続けているのは、明らかな医療過誤(ミス)や医療事故があとを絶たないこと、しかも医療ミスを医局ぐるみで隠蔽しようとした大学病院の実態が明らかにされるなど、悪いニュースを知らされるたびに、人々は病院のあり方に疑間を抱き、信頼できる病院探しを目めざすようになり、「いい病院」と「わるい病院」などの表現が頻繁に飛び交うようになった。また、メディアを通して知った全国の病院ランキングなども参考にして病院を選びはじめた人も多くなった。

医療ミスの増加とともに、患者側が医師たちに賠償を求める「医療訴訟」が増加している。ここ10年でほぼ10倍の約1000件の増加というから驚く。特に2004年は、過去最高とみられる200件に達した。提訴の動機は、ミスの内容もさることながら医療側の説明不足による不信感も強くあり、医師と患者との信頼関係も崩れているのだろう。同年10月1日には、医療ミスや医療事故の報告制度がスタートした。

しかし、報告義務の対象となるのは、全国の病院のわずか3%にすぎず、国立病院機構、大学病院など255の医療機関に限られている。この現状では、「日本医療機能評価機構」がミスや事故の原因を分析し公開して再発防止に役立てるという目的を達するには課題がありすぎるようだ。医療ミスをなくすためには、医師のモラル、新しい知識や技術を持っているのかどうかをチェックする必要があると言われるほど、医師の質の低下が指摘されている。医療ミスの原因の分析も必要だろうが、それよりなにより人々が医師の質に疑間を抱いているのは否定できないだろう。

医療ミスの防止策として医師免許の更新制度を訴える医師も少なくない。ご存じのように、アメリカでは免許更新が主流で、2年に1度の更新が義務づけられている。日本では、厚労省が医道審議会の審議を経て裁判で業務上過失致死などの罪が確定した医師に対し、医師免許の取り消しや医業停止の行政処分を行っている。停止期間を過ぎると、無条件で医師の仕事に復帰できる。

しかし、懸念されるのは、再教育をしないと、再びミスを起こす危険性があるということであり、現実にミスを繰り返す医師の問題も指摘されている。こうした現実をふまえて、ミスを犯す医師なのかどうかを判別できるような更新制度を早めに導入しなければならないとの見方をする医師たちも増えてきているのである。

適性のない医師に命は預けられない。更新制度の導入もさることながら、もっと基本的なところに目を向けてみると、医学生の教育現場は1体、どうなっているのだろうか?と疑問視する向きもある。

小説やドラマなどでもイメージが固定化(あるいはデフォルメ)されてわかりやすいのが、大学病院の教授を頂点とする医局の存在である。医学生は卒業するとその医局に所属し、たとえば内科の医局ならば内科の研修だけをしていたのである。

しかし、専門のことは詳しくなっても、ほかの科については簡単な外科の縫合もできなければ、気管挿管もできないというような弊害が出てきた。救急患者が運ばれてきても「わたしは専門でないからわからない」の対応しかできない。

これもまた、医学生の教育に救急医療を軽視してきた結果で、いろいろと表面化してきたのも事実である。研修医の段階で、すべての科を研修するべきだという動きもあったが、研修制度そのものを変えるには至らなかった。

次回に続きます…

プリベンタブルデスーある救急医の挑戦本連載は、2005年に出版された書籍「プリベンタブルデス~ある救急医の挑戦」のものであり、救急医の魅力を広く伝える本サイトの理念に共感していただいた出版社シービーアール様の御厚意によるものです。 なお、診療内容は取材当時のものであり、10年以上経過した現在の治療とは異なる部分もあるかもしれません。

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公開日:2018年1月25日